最上義光歴史館 - 山形県山形市

▼館長裏日誌 令和5年11月27日付け

◎ 毒殺事件の話 
 義姫の関わる事件で最も有名なのは「政宗毒殺事件」です。
その概要についてはまず、NHKオンデマンドにある「独眼竜政宗」の第22話「弟を斬る」の回のあらすじでも。
 「政宗は小田原への参陣に遅れを取り、秀吉から逆心の疑いをかけられる覚悟で出陣を決めて、伊達家の後継に伊達成実を指名します。出陣前夜、政宗が出陣のあいさつにお東を訪ねると、伊達の家督を小次郎に継がせたいお東は、祝いの膳に毒を盛ります。政宗は一命を取り留めると、禍根を断つため、泣く泣く小次郎を斬ります。お東は兄・義光のもとへ逃れますが、悲しみのあまり既に正気を失っていました。」
 ここで「お東」とは義姫のことで、「祝いの膳」とは、義姫が天正18(1590)年4月5日に催した政宗の小田原参陣の陣立ちの祝いです。毒殺を謀った理由は、一説によると、この前年、秀吉の私闘禁止令にもかかわらず政宗が会津に侵攻し、秀吉の怒りを買ってしまったが、政宗を殺して小次郎を当主にすれば許される、と義光が義姫をそそのかしたため、というものです。また、毒を盛ったのは義姫なのに、小次郎を政宗が斬ったのは、母を殺すわけにはいかないので弟を殺すことにしたとのことです。
 しかし近年、佐藤憲一 (元仙台市博物館館長) さんが、この事件は、政宗と義姫とが共謀した狂言であり、小次郎は殺されておらず、大悲願寺(東京都あきる野市)に逃れたのではないかと、つぎのように推測しています。
 義姫は、政宗が秀吉のもとを訪れても、怒りがおさまらない秀吉に処刑されるだろう、と考えた。政宗が処刑されると、伊達家の所領はすべて没収されてしまう。こうした事態を防ぐため、政宗に代えて小次郎を当主に擁立し、兄の最上義光を通じて秀吉に許しを請おうとした。
 事件当時、政宗は24歳、小次郎は10〜12歳。小田原参陣の時、政宗に実子はいなかった。すると、政宗に万一のことがあれば、伊達家の血統を継ぐ者は小次郎だけであり、それを殺すとは考えにくい。だが、小次郎を当主に推す勢力もあるらしく、伊達家の一本化を図るためには、小田原参陣前に、政宗は弟を排除する必要があった。政宗が小田原の秀吉に会いに行くとき一番心配だったのは、自分の留守中に小次郎を擁立した内乱が起きかねないことである。そこで、義姫と話し合い、小次郎を殺したことにして、寺に逃したのではないか。
 以上、詳しくは当館HPの「歴史館だより30」などを参照いただきたいのですが、この事件の後、小次郎はもとより、山形に戻った義姫も表舞台からしばらくいなくなります。さてこれが「タイムスリッパ− タイガー&ドラゴン」においては、物語の伏線となります。つまりこの二人が姿を消している間というのは、現代にタイムスリップしている、という設定ができるかと。

◎ タイムスリッパ−の世を忍ぶ仮の姿の話
 さて、現代に現れた江戸時代の人が、どんなふうに生計をたてていくべきか。「タイムスリッパ−侍」では、時代劇撮影所での斬られ役の侍という、もうそれだけで物語が動く絶妙な設定となっています。
 では、この義姫と小次郎の場合はどうするか。まず小次郎は小学生ということで、時代劇の子役とか謎の転校生とか。義姫については、その気性からすればスナックの雇われママとか、背丈からすればモデル業とか、あるいは古美術商として、伊達家ゆかりの刀剣・甲冑・書状などを売りさばく、というのもいいかもしれません。
 続いて、伊達政宗ですが、オシャレということからすればブティック経営、んっ、これではまるで「タイガー&ドラゴン」そのままか。あとはホストとかでしょうか。
 そして、義光ですが、得意技を活かすとなると、連歌や古典文学の講師、カルチャーセンターとかでしょうか。あとは、武道、乗馬、鷹狩、うーむ、これだけではなかなか食っていけそうにありません。他に得意技となると、実は手元に戦国武将1図鑑(ワン・パブリッシング社刊)という今年出たばかりの本がありまして、ありがたいことに最上義光の項も設けられていますが、そこには「怪力すぎる大名1」とありました。この本には、各武将等の能力がレーダーチャートで示されていて統率力、教養、策略、領地、先見性、野望、武勇の各項目とともに、その武将特有の能力指標が設けてあり、義光の場合、これが「腕力」であり、その数値がMAXで示されていました。ちなみに伊達政宗は「オシャレ」がMAX、上杉謙信は「休日」が最低、つまり遠征ばかりしている、という評価となっています。
 ではその怪力を活かす仕事とは。まずはガテン系の仕事とか、あっ、ありました、みちのくプロレスとか。キャラも指揮棒を振り回すとかでそのままいけそうですし、いや、失礼しました。でも、先月放映のNHKの某番組では、某有名プロレスラーが義光を演じていましたし。
 さてさて、女主人の古物商ギャラリーに、ホストの息子とコスプレレスラーの兄が集い、そこに謎の転校生が出入りする、不思議な舞台設定のできあがりです。どうでしょう、クドカンさん。

◎ タイムスリップの話
 タイムスリップのパターンは、この「タイムスリッパ−侍」や「テルマエロマエ」のように、過去の人が現代に現れるもの、「ドラえもん」や「ターミネーター」のように未来の人(?)が現代にくるもの、「戦国自衛隊」のように現代の人が過去にいくもの、「猿の惑星」のように現手代の人が未来に行くもの(しかも設定はだいたいデストピア)、そして「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「タイム・マシン」のようにタイムマシンで移動するもの、あとは小松左京著「地には平和を」などに出てくるタイムパトロールとかでしょうか。小松左京と言えば高校生の時、「果てしなき流れの果てに」という10億年の時空を舞台にした小説を読んだのですが、話がわからないのに妙に感動したことを覚えています。どうも時空間を突き詰めていくと、最後は神の領域にいくようです。
 さて、タイムスリップの方法としては、タイムマシンの他、雷などの自然現象によるものだったり、あの犬の半妖が行き来する井戸などの過去や未来とつながるタイムトンネルだったり、あとは「時震」という超常現象だったりします。また、光速を超えて情報だけが送られる情報タイムトラベルというのもあります。
 では、タイムトラベルの物語はというと、過去を変えて現況を変える、または、未来の情報を過去に持ち帰る、というものと、単に時代の違いにあたふたする、というものなどになりますが、「タイムスリッパ− タイガー&ドラゴン」であれば、義光や政宗が自分に起きることを知り、悔やまれることをやり直しする、というのが素直に考えられる展開ではないでしょうか。すると、義光であればやはり秀次事件に巻き込まれて処刑された二女の駒姫のことや、高野山に逃がすつもりなのに暗殺された長男の義康のことではないかと。政宗については、様々あるかとは思いますが、天然痘で右目を失ってしまったこととか、父輝宗を敵将もろとも射殺しなければならなかったこととか、百万石のお墨付きが反故にされてしまったこととか、まあ、いろいろと取り戻せるものなら取り戻したいことがあったことかと。別の展開としては、それぞれの特技を活かして現代社会で大活躍というのもあろうとは思いますが。戦国サロン「義姫」とか。いや、失礼いたしました。

◎ タイムパラドックスの話
 ここでタイムトラベルの矛盾についてのお話でも。情報タイムトラベルでは、未来の情報に基づいて現在を変えれると本来の未来も消滅するという「いかさま師のタイムパラドックス」が生じ、タイムトラベルで過去を変えれば「親殺しのパラドックス」つまり、時間を遡って自分が生まれる前の親を殺してしまったら、自分も生まれてこないという矛盾が生じます。
 ただ、これらの矛盾の解決方法として量子力学的な説明も用いられます。まず、情報タイムトラベルの可能性については、「量子もつれ」つまり、二つ以上の粒子で、一方の粒子の状態を測定することで、即座に他方の粒子の状態が決定され、距離に関係なく瞬時に情報が伝わるという特性を用いればできるかもしれません。
 物理的なタイムトラベルについては、「多世界解釈」で説明されます。これは宇宙の波動関数を実在のものとみなし、観測による波束の収縮が生じない、つまり観測によりひとつの状態に定まるものではなく、重なり合っている多世界が干渉性を失うことで異なる世界に分岐していくという考え方で凌げるというものです。ただ「多世界解釈」では分岐していくだけで、平行世界への移動や干渉ができないということで、話はそこで終わってしまうのですが。
 一方、タイムトラベルを否定するものとしては、未来から過去へ物質や情報を持ち込むとその時点で宇宙全体の物理量が変る、つまり質量保存の法則が破綻してしまい爆発する、という大どんでん返しのような説もあります。
 ところで、時間が進めば進むほどエントロピー(ここでは配列や状態の混沌度を表す量のこと)は増大するという法則がありますが、「マクスウェルの悪魔」という分子を見分ける悪魔がいるとすればエントロピーは減少させられる、という思考実験があります。実は最近、量子コンピューターによる、あるシミュレーションでこの「マクスウェルの悪魔」的な現象が確認されたそうです。一度拡散したものが、収束するという、これはすなわち時間を巻き戻すような現象で、「覆水盆に返らず」ということわざがありますが、それが盆に返る事態となるのですが、宇宙時間のレベルでは、こうしたことが起きる可能性があると言います。ただし、実際に起きるとしたら100億年以上先とのことでした。いわゆる、杞の国に天が落ち、地が崩れると心配する「杞憂」以上の話ではあります。

〇 落語の話
 せっかく「タイガー&ドラゴン」を持ち出したのに、肝心なことを忘れていました。このドラマの大きなモチーフとなっているのが落語です。
 この落語の起源には諸説あるそうですが、戦国時代、武将の側近に持して相手をする「御伽衆(おとぎしゅう)」が話す「夜話」という説があります。御伽衆は軍師として軍政の相談、また文武の指南、雑談などにも応じていました。経験豊富な浪人や若殿の遊び相手となる若者などが起用されたとのこと。
 特に話術の巧みな御伽衆は、夜襲に備えるために夜通し起きている兵士らの眠気を覚ますため様々な話をし、中でも「オチ」をつけた笑い話が落語の起源とのこと。落とし噺というのが落語の語源であることは、皆さまご存知のとおりです。
 最上義光の家臣にも「堀喜吽(ほりきうん)」という御伽衆がいました。上方で兵法を修業し、文化芸能の達人でもあり、京都で開かれた連歌の席には、主君義光と共に16回同席しました。現在、当館で展示中の連歌巻にも、堀喜吽が詠んだ句があります(「賦何舩連歌(1596年)」、「賦何墻連歌(1598年)」)。詳しくは当館HPの「最上家をめぐる人々♯34」などを参照願います。
 この御伽衆、連歌師とともに、ドラマ的にはなかなかおいしい役柄になりそうです。また、連歌を催す「連歌会(れんがえ)」は、大名、貴族、僧侶、豪商などが集う場であり、今どきのドラマであれば喫茶店やスナックのような使い勝手のいい場として、さまざまな登場人物を行き来させることができます。
 さてさて、そんな下世話な話はさておき、落語の話に戻りましょう。
「タイガー&ドラゴン」は毎回、古典落語をマクラ(?)に話が展開していくのですが、まず最初のスペシャルドラマでかけられるのは「三枚起請」。廓噺ではありますが、人情噺とも滑稽噺ともなるもので、まずこの落語からというのはさすがという他ありません。続いて、連続ドラマ化された第1話が「芝浜」、最終話が「子は鎹(かすがい)」という人情噺の大ネタをもってきて、間には「明烏」や「品川心中」といった廓噺や、「厩火事(お前が指でも怪我したら明日から遊んで酒が呑めねえ)」や「猫の皿(時々猫が3両で売れます)」といったサゲが効いた話など、まあ、そのラインナップ加減はすばらしいの一言です。
 そこで、余計な事とは重々承知の上ですが、もしこのタイムスリッパ−版がつくられるとしたら、どんな落語が並ぶでしょうか。
 まずは「あたま山」でも。頭の上でさくらんぼの種から枝が伸び、花見がはじまり、池で釣りをするというお話(これだけでは全くわからないかもしれませんが)ですが、これを戦場に置き換えるというのはどうでしょう。また骨董屋の話としては「火炎太鼓」。いわずと知れた有名落語です。ちょっと似たような話で「井戸の茶碗」もどうでしょう。どちらも五代目古今亭志ん生の名演があります。
 あとは「二階ぞめき」とか「湯屋番」などの妄想ネタは、いろんな場面が仮想的に描けそうです。「反魂香」とかは過去の人との交信に。「悋気の火の玉」という噺もなかなか面白い設定です。妻と妾が次々亡くなり、火の玉になってぶつかり合うというものですが、武将とかに変えると何か応用がきくかもしれません。ちなみにこれは五代目三遊亭圓楽がとてもいい。
 似た演題に「悋気の独楽(こま)」というのもあります。今夜は本宅か別宅かを独楽で決めるという話ですが、昭和15年9月20日、警視庁は内容が卑俗的で低級であるとして、これを「二階ぞめき」や「高尾(=反魂香)」などとともに53演目を上演禁止(禁演落語)としました。逆に言えば、それだけ落語を当局は観ていたということなのですが。

2021.11.27:最上義光歴史館

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